矯正治療の豆知識
矯正治療の豆知識
Posted by 川端庄一郎 on 2015.12.05
これまでの矯正歯科領域におけるアレルギーと言えば、金属アレルギーとアレルギー性鼻炎(による口腔周囲環境の変化≒口呼吸=口がポカンと開く)で あった。 確率から言うと圧倒的に後者が多く、成長発育期治療を担う矯正歯科医としては極めて重要なことなので、別枠にて後述したい。
金属 アレルギーの症状は接触性皮膚炎に代表される、当該金属が触れることによるかゆみ、発赤、ただれ、びらんで、主に汗などによって原因となる金属成分が溶出 し、体のタンパク質とくっついて反応することによる。代表的なものとしてピアス、ネックレスが挙げられる。原因金属はほとんどがニッケル、コバルト、クロ ムで、比較的安価な合金装飾品やメッキもので起こる。金、銀、白金等の貴金属はイオン化傾向が低く、原因元素となりにくい。アレルギーの分類では、Ⅳ型 (遅延型)に属し、感作から1、2日後に細胞性免疫機構が回りだす。
口腔内では、むし歯治療の詰め物、矯正治療の金属ワイヤーの一部に上記 金属が含まれており、1回目の接触(感作という)を経て、次の接触がある一定の量(閾値という)を超えると発症すると言われている。メカニズムとしては花 粉症に近い。口の中の症状は、赤くなったり、逆に白くなったりする。痛みはまれである。
さて、最近金属アレルギーの他に、ラテックスアレル ギーと呼ばれるゴムによるアレルギーにあたることが多くなった。ラテックスとはゴムの木に傷をつけた時に出る”白い汁”のことで、ゴム製品の中には天然ゴムを原料にしているものが多く、これがアレルギーの原因になりうる らしい。医療現場における急速な感染対策の普及により手術時はもちろん、通常の診療、器具の滅菌、バックヤードでの整理、清掃等多くの場面でゴム手袋が必 須となったが、一昔前は医療従事者側の感作がほとんどであった。ここ最近、患者さんサイドでもラテックスアレルギーを疑うことがある。歯科診療時に医療従 事者側のゴム手袋が頬や口唇に触れるからと思われる。
アレルギーの型は、アナフィラキシーや喘息と同じⅠ型(即時型)に属し、接触部位にかゆみ、発赤、丘疹(ぶつぶつ)、水泡が出る。また、キウイフルーツ、アボカド、桃、バナナ等の果物で交叉反応が出る場合がある。ゴム手袋には着脱しやすいようにパウダーがまぶしてあるものがあり、このパウダーにアレルギー物質が結合して空気中を舞うと、まれに呼吸器に対し喘息様の症状を引き起こすことが判っており、かわばた矯正歯科ではパウダー付きのゴム手袋は使用を止めた。また疑いのある患者さんには、天然ゴム成分の入っていないプラスチックグローブに切り替えて診療にあたっている。
上はラテックスグローブ(↑)、下はプラスチックグローブ(←)
ただし、原因が天然ゴムではなく、ゴム手袋を製造する過程で使用する材料のうち、チラウムという加硫促進剤や劣化防止のための酸化防止剤の場合もあるので、詳しくは皮膚科、アレルギー科医による診察が望ましい。見分け方の参考のひとつになるのが『発症までの時間』で、天然ゴムアレルギーは即時型(Ⅰ型)のため、接触から30分~1時間で発症するのに対し、製造過程の化学物質によるものは、遅延型(Ⅳ型)であり、6時間から36時間ほどかかる。つまり、ラテックスアレルギーの場合は、診療後帰宅するころには既に何か症状が出ている可能性が高いことになる。