矯正治療の豆知識
矯正治療の豆知識
Posted by 川端庄一郎 on 2016.11.15
久々にお目にかかります。
私事ですが、念願の”Board”と呼ばれる臨床実地の専門医資格試験にパスすることができました。これについては次項で触れることにしますが、受験準備をしている間に世の中はめまぐるしく進捗し、アメリカでは歴史的大どんでん返しがありました。長年積み上げてきたTPP交渉はもはや風前の灯。実は今回はTPPではなく、HPP(低ホスファターゼ症)についてのはなしをします。ちなみに今年の流行語大賞にはPPAPが入るでしょうね!(笑)
小児において歯科症状を引き起こす骨疾患として、骨形成不全症に次いで2番目に多くみられるのがHPP(低ホスファターゼ症)です。ある遺伝子変異による酵素活性の低下が原因で発症する遺伝性代謝性疾患で、全身的にさまざまな骨症状を引き起こします。臨床症状は周産期での超音波診断により骨の形成不全がみつかるものから幼児期における頻回の骨折によりこの疾患が疑われるものまでさまざまですが、注意すべき臨床症状のひとつに5歳未満での乳歯の早期脱落をあげることができます。
全国の小児歯科、口腔外科関連施設への調査で、25例中19例で乳歯の早期脱落が認められ、1歳から4歳で主に下あごの乳前歯で脱落がみられることが多いとの報告でした。
HPPによる乳歯脱落の様式は、歯根(歯の根っこで通常、歯槽骨と呼ばれる歯を支える骨に埋まっている)の周りにある”セメント質”と呼ばれる部分の形成不全により歯槽骨とのつながりを維持できず、かみ合わせの力に負けてしまうと考えられています。
大阪大学小児歯科の仲野和彦教授によると、成長した小児期HPP患者さんの歯科症状がどのような経過をたどるかは統計的調査報告がほとんどないが、永久歯の前歯でも脱落が認められたケースが1症例あるそうで、今後研究が進んでいくことを期待したい。また、医師や一般歯科医の中には、乳歯はいずれ永久歯に生え変わるのだから早期脱落は問題ないと考える先生もいるが、乳歯は食べものを咬んだり発音を制御するなど直接かかわっていること以外に、その存在自体が後の永久歯列をかたち作るために間接的にとても大切な役割を果たしていることを認識してもらいたいものです。5歳までに乳歯の動揺、脱落がみられた場合はすみやかにかかりつけ医もしくは歯科医に相談をしましょう。