矯正治療の豆知識
矯正治療の豆知識一覧
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Posted by 川端庄一郎 on 2017.04.12
金属アレルギーという定義は、金属という、通常だと人体に対し影響のない無機物が原因(侵入者)となって人間の免疫機構を回してしまい、赤みやかゆみ、湿疹、かぶれなどのアレルギー反応を引き起こしてしまうことだが、この金属が歯の詰め物・かぶせ物、あるいは矯正治療などの歯科治療に使われる金属だと『歯科金属アレルギー』とな ります。今回は歯科金属アレルギーの第1人者と言われる高(こう)永和先生のお話しを聞いてきました。
歯科金属アレルギーと鑑別(医師が診断で見分ける必要がある他の病気)されるものに、全身症状が出るものとして、①アトピー性皮膚炎、②掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、③湿疹、④乾癬、⑤ニキビ等があります。また、口腔内症状のものとしては、⑥口内炎、⑦扁平苔癬、などが挙げられます。
(上の写真から、アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、乾癬、歯科金属アレルギー ―ムム。。これは皮膚科の先生でないと判断できませんね! )
医師(または歯科医師)の診断のめやすとして、 ア)皮膚科・アレルギー科医師の治療によっても1カ月以上改善がない。イ)金属パッチテスト陽性反応の出た金属を除去して1年以内に改善。ウ)その後、ステロイド投与がなくても1年以上発症していない。 以上3点が必須条件とのことです。
矯正治療で使用する金属の中で、金属アレルギーの原因となる元素は、ニッケルが圧倒的に多いです。次いで、コバルト、マンガンです。
ニッケルについては、いくつか興味深いことが判ってきています。たとえば、食べ物との交叉反応というものについて、キウイやモモ等、果物とゴムアレルギーに関連があることは以前お話し致しました。きな粉やチョコレートにはニッケルが含まれており、交叉反応が見られます。また、最近よく耳にするPM2.5やタバコの煙にも交叉反応があるとの報告があります。
既往歴としては、アトピー性皮膚炎のある子どもさんが、矯正治療により装置の金属が原因でアレルギーが出現することがあります。過去に矯正治療をした経験のある成人が後に金属アレルギーを発症することがある、とのことです。何か思い当たるフシのある方は、医師や看護師による問診の際に挙げておかれることをお勧めします。
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Posted by 川端庄一郎 on 2016.11.15
久々にお目にかかります。
私事ですが、念願の”Board”と呼ばれる臨床実地の専門医資格試験にパスすることができました。これについては次項で触れることにしますが、受験準備をしている間に世の中はめまぐるしく進捗し、アメリカでは歴史的大どんでん返しがありました。長年積み上げてきたTPP交渉はもはや風前の灯。実は今回はTPPではなく、HPP(低ホスファターゼ症)についてのはなしをします。ちなみに今年の流行語大賞にはPPAPが入るでしょうね!(笑)
小児において歯科症状を引き起こす骨疾患として、骨形成不全症に次いで2番目に多くみられるのがHPP(低ホスファターゼ症)です。ある遺伝子変異による酵素活性の低下が原因で発症する遺伝性代謝性疾患で、全身的にさまざまな骨症状を引き起こします。臨床症状は周産期での超音波診断により骨の形成不全がみつかるものから幼児期における頻回の骨折によりこの疾患が疑われるものまでさまざまですが、注意すべき臨床症状のひとつに5歳未満での乳歯の早期脱落をあげることができます。
全国の小児歯科、口腔外科関連施設への調査で、25例中19例で乳歯の早期脱落が認められ、1歳から4歳で主に下あごの乳前歯で脱落がみられることが多いとの報告でした。
HPPによる乳歯脱落の様式は、歯根(歯の根っこで通常、歯槽骨と呼ばれる歯を支える骨に埋まっている)の周りにある”セメント質”と呼ばれる部分の形成不全により歯槽骨とのつながりを維持できず、かみ合わせの力に負けてしまうと考えられています。
大阪大学小児歯科の仲野和彦教授によると、成長した小児期HPP患者さんの歯科症状がどのような経過をたどるかは統計的調査報告がほとんどないが、永久歯の前歯でも脱落が認められたケースが1症例あるそうで、今後研究が進んでいくことを期待したい。また、医師や一般歯科医の中には、乳歯はいずれ永久歯に生え変わるのだから早期脱落は問題ないと考える先生もいるが、乳歯は食べものを咬んだり発音を制御するなど直接かかわっていること以外に、その存在自体が後の永久歯列をかたち作るために間接的にとても大切な役割を果たしていることを認識してもらいたいものです。5歳までに乳歯の動揺、脱落がみられた場合はすみやかにかかりつけ医もしくは歯科医に相談をしましょう。
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Posted by 川端庄一郎 on 2016.08.22
歯科領域の抱える問題は大古から『むし歯』と『歯周病(歯槽膿漏)』が挙げられ、これに『あご関節の機能異常(顎関節症)』を加えた3つを歯科の3大疾患という。3大と言っても現在最も多いむし歯については意外に歴史が浅く、日本で砂糖(ショ糖)が口に入るようになったのは江戸時代のお殿様が饅頭を食べた頃からと言われており、これ以前より日本では歯を黒く染める”お歯黒”の風習によりむし歯に侵される割合が極端に少なかった。≪オハグロ≫をパソコン等で漢字変換すると≪鉄漿≫という漢字が出てくるが、成分の中に銀イオンを含むタンニンがあるため、歯の表面が酸による脱灰から強く守らていたことになる。銀については、現代においても家電製品に銀イオンを発生させるものがあったり、Ag+というと抗菌パワーをうたい文句にした制汗剤、防臭剤等の生活備品、美容製品の枚挙にはいとまがない。
ところで子どものむし歯は一般的に砂糖制限や予防意識の確立により激減し、12歳におけるDMF歯数(むし歯とむし歯治療済みの歯の合計)が1.0本を下回ったことは前述した通りである。欧州のある国ではむし歯が限りなく”ゼロ”に近づき、将来、『むし歯』というむし歯菌による感染症に対する駆逐宣言が出来るといっても過言ではない。これに対し2つめの疾患である『歯周病』は、掘り出された縄文時代の遺骨の歯にも見られたり、野生動物にも見られるようにまさに大古から存在することが明らかである。また、疾患の発生機序については世界中の多くの研究者が日夜取り組んでも完全には解明されるには至っていない。私が学生だったころに授業で教わった歯周病の発症メカニズムや免疫機構は、今ではほとんど役に立たないと言っても過言ではない。どうやら免疫学の分野は非常に複雑で一筋縄にはいかないようだ。
そして、一番新しい歯科の疾患は『金属アレルギー』である。花粉症、食物アレルギー、ハウスダスト、、、これらの原因(ハプテンと呼ばれる)以前ではいわば『自然にあるもの』に分類される類(たぐい)のものであり、これまで問題視されてきた『人工により作り出されたもの』、例えば、合成洗剤や着色料、排気ガスに含まれる窒素酸化物などその時代時代でやり玉に挙がったものは数知れずあるが、体内への蓄積や解毒(消化して排泄できるか否か)の問題であり、アレルギーとは一線を画すものである。人間が営みを続ける限り”新しい人工物”をなくすことは不可能なので、この類の問題は今後も出てから対応するほかない。これに対し自然物に対する反応であれば、今後の研究成果によっては根絶する方法があるかもしれない。一見真逆のような議論になりそうだが、私はこのように願う(他力本願ではあるが)。
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Posted by 川端庄一郎 on 2016.08.20
連日のメダルラッシュに沸くリオ・オリンピック大会。お盆期間中はTV観戦のため、毎日昼夜逆転生活を送っておりました。ひとつの感動に浸る間もなく次々と舞い込んでくるメダル獲得ニュースに歓喜しっぱなしです!
メダルと言えば、言わずもがな金・銀・銅。金メダル、銀メダルは金地金や銀地銀ではなくメッキだそうだが、歯列矯正で使用する金属材料は、ほとんどが合金で出来ている。成分元素の”混ぜ具合”は日進月歩で進化しており、特に持続的な力を発揮する弾性力や、たわみやねじれが元の形に戻ろうとする復元力において、それまでになかった形状記憶ワイヤーであるニッケルチタン合金の発明は、特にマルチブラケット装置を用いた矯正治療の技術向上や治療期間短縮、患者さんの痛みの軽減といった夢のような改善を飛躍的にもたらした。ひと口に同じニッケルチタンワイヤーと言っても、合金の組成開発各社はその特性に特徴を持たすべく日夜研究にしのぎを削っている。ニッケル、チタンのほか、クロム、モリブデン、マンガン、ケイ素、炭素、、わずかな含有量の違いにより目的に応じたニッケルチタンワイヤーが用意されている。当院で使い分けているニッケルチタンワイヤーを紹介します。
1)コシ(粘り)のある特徴で歯列弓形態(アーチフォーム)を一定に整えやすいニッケルチタンワイヤー (当院で一般的に用いる)
2)温度変化に敏感で、口の外ではふにゃふにゃなのに(上)、口の中の温度(37℃)になると元の形状にシャキッと瞬時に戻る(下)カッパー・ニッケルチタンワイヤー
3)患者さん個別の歯の形態に合わせて曲げられるTMAワイヤー
4)金属アレルギー症状(後述)を引き起こしにくい組成のゴムメタルワイヤー
5)よりゴージャスに見せる(魅せる?)ため金をコーティングしたワイヤー(左:ピーチゴールドワイヤー、右:レモンゴールドワイヤー)、、等。
6)目立ちにくい、白いコーティングニッケルチタンワイヤー
実は『金色のワイヤーが見栄えする』という患者さんも居られます。日本では多くの方がより目立たない、見えにくい、装置を希望されます。しかし、アメリカでは矯正治療(装置)はステイタス。その人の素養や自己投資に対する積極性を表すとされています。だって、日本人の皆さん、金銀のティファニーやロレックスは大好き!でしょう?(私はほとんど興味がないのですけれど)
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Posted by 川端庄一郎 on 2016.06.03
お久しぶりでございます。(私事ですが、資格試験の準備でかなり取り込んでおりました)
一般歯科、矯正歯科を問わず歯科領域の技術革新は、主に接着技術の変遷によるところが大きい。一つは審美歯科の領域で、歯が欠けたり、割れたり、以前なら抜歯してしまうとか銀歯を被せるなどあきらめるしかなかったようなケースが、ものの見事に元通りになったかように治せる技術。もう一つは矯正治療の領域、装置を歯に着ける方法(ダイレクトボンディングという)の技術革新です。
昔と言っても約30年前までは、下の写真のようにすべての歯にバンドと呼ばれる金具(全帯冠装置)を装着していたそうです(しかし、金具を歯に”接着”させていることには変わりないので、さらに昔からみれば当時はそのやり方も最新の治療だったに違いない)。つまりもし私が中学生で矯正治療をやっていたとしたら、こんなのを着けていたことになるわけだ。実は卒後、矯正治療を学ぶために大学の医局に入局した時は、新入りは等しく全員がまずこの全帯冠装置を”練習”したのだが、朝から夜中まで指から血を流しながら四苦八苦した経験がある。しかし、『(^^♪安心してください!』 実はこの練習は患者さんではなく、マネキンが相手でした。
”患者さんドクターも涙ぐましい努力をされていた時代”
さて、一般歯科の治療技術が上がれば、当然それに合わせる形で矯正装置の接着技術も上げていかねばならないわけで、それまで歯に直接着けられなかったものも着けられるようになり、金属のかぶせ物の歯にも着けられるようになり、さらにセラミックスでできた白いかぶせ物にも着けられるようになり、さらにさらに話は接着からはすこしずれるがアンカースクリュー(矯正用ミニインプラント)が歯を支える骨に植立できるようになり、治療の守備範囲も飛躍的に広くなった。
『金属接着用(Vプライマー)』
『セラミックス接着用(セラミックプライマー)』
上記写真の右上(黄色いふた)が、現在歯の一番表層にあるエナメル質への接着力で最強の”メガボンド”と呼ばれる商品です。一般歯科、修復治療で使われる接着は『一生取れない、外れない』前提でも構わないが、矯正装置は『治療が終われば安全に外さなければならない』接着力が必要で、何がなんでも外れないものだと、歯の表面が欠けてしまったり、ヒビが入ってしまったり、では具合悪いところが難しい。矯正具が食事で咬む度に何度も外れれば不信を招くし、お叱りを受けることもある。
さらなる接着技術の向上を目指して次なる開発コード名は、メガボンド⇒”ギガボンド?”⇒”テラボンド?”、はたまた”メガメガボンド”⇒”メガメガメガ。。”かな??